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主人公視点
お客さんにオムライスを届け、CIOSEの看板に変え、最後のお客さんが支払いをして帰って行く姿を見届けた。その後、鍵を閉めてイチャついている二人の元へ向かった。
「はぁ、お帰りなさい。嶺さん」
クレハさんを後ろから抱きしめて耳にイタズラしているらしい。
クレハさんの一喝で嶺さんは渋々腕を解いてそれでも、クレハさんの後ろについて行っていた。
クレハさんは慣れているのか、特に気にした様子もなく昼ごはんを素早く完成させると僕と嶺さんをカウンターに座らせた。
クレハさんが、早く相談して、みたいなことを言ってきた。
えと、どうやって言おうかな。
「…あの、クレハさん。鏡貸してください。」
カルボナーラを口に含んだ。美味しい。ここ数年のご飯はここでお世話になっている。
「え、鏡?はい、どうぞ。」
どうして鏡なのか分からないみたいで、首を傾げながら渡してくれた。
僕は制服の首元のボタンを少し外し、長くなってきた髪を横にずらしてその鏡を自分の首元にかざした。
右側の後ろくらいのところにある、僕の印痣。鏡越しに見ると、いつもはよくわからない形をしている印痣の淵の部分がはっきりしていた。
「…お前、もしかして出会ったのか?運命の印番と。」
さすが嶺さん。嶺さんは医者をしている。特に印番の。
「…はい。おそらく。」
「え、どんな人だったの?」
どんな人、かぁ。たしか、
「金髪青眼の王子さま顔。ああ、ここら辺では見ない格好してた…かも。」
ふと、カウンターの上に乗っている新聞が目に入った。
「ヒュ、ゲホゲホ、ゲホケホケホ」
「ちょ、大丈夫?はい水。」
驚きすぎてご飯が気管に入りそうになった。
「ケホ、ケホ。…この新聞の、この人です。」
指差した先には、空港を複数のボディガードに守られながら歩くさっきの男が。
そして見出しには、《レオンハルト・ラ・スミリティア・アルカディア様突然の来国!運命の印番探しか?!》
一面を飾る、美しい顔と堂々と書かれている見出しを目にした二人が僕と同じように噎せたのは言うまでもない。
落ち着いた二人が説明しろと言わんばかりの目でみてきたので、経緯を軽く話した。
「へぇ、ぶつかった。ねぇ。」
「ルー。相手はお前が印番だと気付いていたか?」
相手が王子だと言ってちゃんと信じてくれた。それどころか何かを考えてくれている。それが嬉しかった。
「…はい、多分。印番認識の条件が何か分からなかったので喋ったり、素肌同士の接触は気をつけたんですけど。ぶつかって、顔を認識して
、意思の疎通はなんとなくしちゃったんです。」
「そうか。でも、もし相手がルーのことを印番だと分かっていたら、直ぐに連れていかれている筈だからまだ大丈夫だ。ましてや、印番探しで日本に来ているのなら。」
嶺さんは新聞の見出しをトントンと指差しながら言った。
「そうよ。私なんか、嶺くんにいきなり抱きしめられて、キスされて…ほんっとにびっくりしたのよ。」
まぁ、確かにそうなるよね。
「で、ルーはどうしたいんだ?」
そう聞かれて僕はうつむいた。目を閉じて思い出すのは僕をあの地獄から救ってくれた優しい彼だけ。
彼を裏切るようなことはしたくはなかった。
「…僕は、旅に出ようかと。」
「つまり、この運命の王子さまじゃなくて、アイツを選ぶんだな。」
この二人は彼と親しい友達だった。だから知ってる。僕の過去も、彼との関係も。
「でも、運命の相手は出会ってしまったら運命が何があろうともくっつけようとしてくるのよ。しかも、相手は王子だし。」
「…尚更のこと、相手がまだ気づいてないうちに逃げるよ。」
たとえいつか捕まって身も心も溶かされたとしても、虚偽の運命に乗っかるつもりは決してない。
今まで散々乗っかってあげてたのだから今度は反抗してやる。
「そっか、ルーちゃんが決めたことなら応援するわ。手続きとか、準備とか、私達に任せておきなさい。って、どこに旅するの?」
「…取り敢えず、アルカディア国に。どんな国か見てみようかなと。」
いづれそこに行かなくちゃいけない事になるのだろうから行ってみたいと思った。
しかも、せっかくアルカディア語を話せるんだから、使ってみたいじゃん。
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