あの頃の私に手向ける花

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※  勘違いしないで欲しいのだが、親にも青春があったように、私にだって情熱に燃えてた時代はあったし、異性とのふれあいに心をときめかした事だってなくはなかった。 「俺は小説家になるんだ!!」  そう豪語して大分県の田舎を飛び出した青春時代は、私にも確かに存在したのである。  ここにいたらダメだと思った。地元は方言がキツ過ぎて日本人の9割以上は理解できない会話しか飛び交ってなかったのだ。ここじゃ大分弁は学べても日本語は学べない。  そうして東京に飛び出して、幾つかの仕事を転々としながら小説大賞に応募しまくった。そして、やたら店内BGMが耳に残る大手ディスカウントに採用されたのが10年前のこと、初の正社員だったから思わずガッツポーズで喜んだ。  今思えば、あの頃には青春とは既に言い難い年齢に到達していた。  大丈夫、村上春樹は29歳でデビューしたんだ。ちょっと過ぎたけど、湊かなえは34歳。森博嗣なんて39歳……いやあの人は元々大学教授だからダメだ。とにかくまだ焦る年齢じゃない。  そう思って、しかし、あのやたら中毒性のある店内BGMを無意識に口ずさむ程に洗脳が進んだ頃、私は小説を書かなくなっていた。  だって、仕事疲れたんだもん。  むしろもっと遊んでおけば良かった。  そんな私にも転機が訪れる。  バイトの子に、休日デートに誘われたのだ。この世の春かと思わんばかりの出来事に私は狂喜乱舞して、種馬よろしくピカピカの一張羅を身にまとい、デートの地に颯爽と舞い降りた。  彼女は来なかった。  後で聞いた話では『私服がキモい』という事で私を見て回れ右したらしく、ついでにそのままバイトはばっくれられた。なぜか私が怒られた。世界は理不尽に満ちている。  それともあれか。  もしあの時、私が花言葉さえ知っていて女性に花を贈るくらい洒落ていたら、違う未来があったのだろうか。どれどれ、薔薇の花言葉は一目惚れ……ていうか本数で意味違うのか。なんかくしゃみの回数で人がどんな噂してるか分かるみたいのあったが。あれみたいな物か。  あのキモいと評された一張羅の胸元に、もし一輪の薔薇が挿してあったら。  彼女は髪を茶色に染める程に垢抜けていたから、さぞ百戦錬磨の恋愛強者だったに違いない。だからたちどころに私の薔薇の意図を見抜き、きっと私に駆け寄り心のままに抱きしめて、薔薇のトゲが私に刺さった事であろう。  なんという事か。  私が手を伸ばせば届く所に、全然違う未来の可能性があったのではないか。私が、ただ花言葉を知らなかったばかりに!!!
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