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お互いに満足するまで性を貪った後、彼はベッドの上で語りだした。
うそ。私はまだ満足することが出来ず、溶けかけたアイスキャンデーをいやらしく舐めていた。
「知ってるかい? この世で一番美しい花の話」
「ふぃらない」
「蓮の花なんだってさ、蓮華ちゃん(傍点)」
彼は私を指さして言う。
他人に指をさすのはあまり褒められたことではないけれど、彼の場合許されてしまう。
ちゅぽん、と舐めているのに体積が大きくなっていく棒アイスを口から出して、指で形を整える。
「ふふ、面白いねそれ。口説いてるの?」
私はもう堕ちているけれど。
「違う違う。仏教の話だよ」
「へえ、どんな話?」
「蓮の花が美しいと言われるのはね、5つの理由があるって話だよ」
紫色のお香が充満する寝室。
煙たくて息苦しいけれど、それが気持ちいい。
「淤泥不染の徳(おでいふぜんのとく)って言ってね、蓮の花は綺麗な野山じゃなくてどろどろの沼地に咲くだろ?だけど、泥に染まらぬきれいな花を咲かせるんだってさ。そこが──」
「そこが私に似てるっていいたいんでしょ? こんなことしているけれど外見は綺麗だって」
外見が良かったから、15で芸能界に入ってそこから4年間なんとか仕事を繋いでいる。
中身は……最低だ。蓮の花は泥でできている。
どろりとした闇色の泥で。
ナイトテーブルの上から注射器が床に落ちた。
それをふらふらとした動きで拾いながら彼は言う。
「そういうつもりはなかったんだけどな。なるほど。いい口説き文句だね。今度使わせて貰うよ」
「それ、名前に『蓮』がつかないとダメじゃん」
「ああ、ホントだ。……ダメだな。クスリで頭が回ってない」
「蓮の花は他にも、一茎一花の徳(いっけいいっかのとく)、花果同時の得(かかどうじのとく)、一花多果の徳(いっかたかのとく)とか色々意味があるけど、俺が特に好きなのは────」
「中虚外直の徳」
「それどういう意味?」
「蓮の茎の特徴。茎はレンコンのように、中にいくつもの空洞があって、これを中虚というんだ。
で、外直とはまっすぐという意味」
「ふーん、どうでもいい」
「おい」
「もう寝るわ」
「そうか、おやすみ」
最初に身体を売ったのは16の時だった。
仕事の量が全然増えず、焦りがピークに達した時だった。
とあるプロデューサーから誘いを受け、戸惑いながらも了承したのだ。
仕事は目に見えて増えた。露出も増えた。インスタグラムのフォロワーも3万人を超えた。
だけど、満たされなかった。
女優の肩書きはあるが、それは自己顕示欲を満たすための手段だった。
当時は心のはじっこがじくりと痛んだ。
なんて馬鹿なことをやっているのだろう。そんな風に思って塞ぎ込むこともあった。
そんな時、決まってプロデューサーに呼ばれるのだ。
そうして抱かれることで刹那的な悦楽の波に身を任せることが出来た。
いつしか罪悪感は薄れ、仕事をするために抱かれているのか、抱かれるために仕事をしているのかわからなくなっていた。今もまだわからない。
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