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一夜明け、いつも通り会社に出勤してみると、昨晩の出来事がどうも現実のこととは思えない。文字通り狐か狸にでも化かされたような心持ちである。  出勤途中にあの店があるか確かめてみようと思っていたが、いつの間にか彼の家を出るのがギリギリになってしまい、それどころではなかった。  会社の同僚に話すのも何となく気後れして、モヤモヤしていた。ただ、今日の夜もあの店が存在するのかどうか、不安でならない。仕事をしていると何となく気を紛らわすことができたが、同僚とランチするときなど、話半分に相槌を打ち、心はあの交差点の花屋の店内に入り込んでいた。  就業の時刻になると、食事の誘いも断り、一目散に帰路についた。満員の地下鉄と電車を乗り継ぎ、昨日の出来事が夢でないように、とそればかりを願っていた。半ば駆け足で昨日と同じ川沿いの道筋を歩く。風が強かったせいか、日中に地域のボランティアが掃除でもしたのか、昨日まで道に散らばっていた桜の花びらがかなり少なくなっている。菜々美は例の交差点に昨日と同じ店の光を見ると、一気に駆け出した。
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