貴方に花を。色とりどりの、綺麗な花を。

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 そこは、真っ暗な…灯り一つ無い、真っ暗な場所。  そこに、一人の女の子がいました。  真っ暗な場所で、一人ぼっち。  女の子は蹲って、すんすん、すんすんと鼻を啜り、涙に暮れていました。  …と、不意に、  ぽっ、ぽっと、真っ暗なその場所に、灯が灯りました。  灯は優しく、温かく、果ての見えない一本道の足元を照らす様に灯っています。  ふと女の子が手の中を見れば、そこには沢山の…数え切れない程沢山の、ブライダルベールの花束を抱えていました。  女の子はごしごしと涙を拭くと、花束をよいしょと抱え直し、果ての見えない一本道をてくてくと歩き出します。  女の子は道の途中で沢山の人とすれ違い、出会い、お話して、声を掛けたり、一緒に悩んだり、時には傷を癒したりしました。  そして女の子は立ち去る時、自分が持っていたブライダルベールの花を一輪、その人達に託したのです。  花を託された人達は、ほぅっと安心した顔をしたり、ぱぁっと嬉しそうな顔をしたり、にっこりと笑って女の子に「ありがとう」と言ってくれたり。  そうしてその人達は、女の子に自分が持っていた花を一輪、託していくのでした。  眼帯をつけ、夢を叶えたアリスは、アルストロメリアの花を。  独りぼっちだった黒猫と、動物と話せる普通の女の子は、メコノプシスの花と、ブルーファンフラワーの花を。  全身に火傷の跡がある祝火の魔女は、ストロベリーキャンドルの花を。  大切な人に災いから守り続ける指輪を捧げた男性は、デュランタの花を。  大好きな人の魂と共に生きる死神は、ストックの花と、ヘリオトープの花を。  てくてく、てくてく、女の子は歩き続けます。  その道中でも、女の子は沢山の人達とすれ違い、沢山の花を託されました。  大切な人を失い、それでも幸せになろうと誓った女性からは、クンシランの花を。  大切な人の命を削ってでも、その人の傍にいたいと願う亡霊からは、ミソハギの花を。  そっと誰かを見守る付喪神からは、エリゲロンの花を。  お狐様と、お狐様のお嫁さんからは、ネメシアの花と、オンシジウムの花を。  絶望に覆われた人々を照らす希望を生んで死んだ男性と、死後に生きている時以上の満足を得た駅員からは、レンギョウの花と、ハナチョウジの花を。  女の子に託される花には、一輪として同じ物はありませんでした。  どれもこれも素敵に、美しく咲き誇っていて。  ちりんと綺麗な音を持つ鈴と、狐のお面を身に着けた女の子からは、ワスレナグサの花を。  ヘッドフォンを付け、魔に見初められた女性からは、オシロイバナの花を。  同じ日を繰り返し、死を拒絶した少女からは、ゲッカビジンの花を。  死を望み、しかし生きたいと希ったホムンクルスからは、アフリカンマリーゴールドの花を。  物に込められた想いを“視”る店長さんからは、エーデルワイスの花を。  …女の子から花を託されても、面倒くさそうに立ち去っていく人もいました。  …けれどそんな人達も、後になって女の子を後ろから追い掛けて来て、花を一輪、女の子に託して、去って行くのです。  真白の髪と、木の実の様に真っ赤な瞳の配達屋さんからは、サフランの花を。   とても仲の良いリザードマンと、機械仕掛けの天使の夫婦からは、バーベナの花と、サルビアの花を。  大切な妹を見守るお姉ちゃんからは、ウォールフラワーの花を。  遠くへ行く途中の二人の少女からは、トケイソウの花を。  車に乗る二人の女性からは、コルチカムの花と、カーネーションの花を。  沢山の花を託され、沢山のブライダルベールを託し、  女の子が持つ花束は、どんどん、どんどん、鮮やかになっていきます。  毛むくじゃらの化け物と車椅子の少女からは、ヒルガオの花と、アセビの花を。  手を取り合い空に消えていった女の子と魔神からは、アネモネの花と、アメリカンブルーの花を。  お話が得意な破壊兵器のロボットと、ちょっぴり体の弱い兎の姿をした少女からは、サルスベリの花と、ローズマリーの花を。  愛を知らず、愛を知り、愛を手放し、愛を繋いだ少女からは、オオギクの花を。  そうして、顔は見えませんでしたが、心優しいお姫様と魔界の王様からは、エキナケアの花と、ペンタスの花を。  やがて女の子が沢山の人に花を手渡し、沢山の人から花を手渡された頃。  道の果てと分かる様な…その先に道は無い、そんな場所に辿り着きました。  そこには、真っ白なシーツが掛けられたベッドが一つ、置かれていて。  女の子は、女の子が数え切れない程、色とりどりの花を抱えていて。  女の子はその花達をベッドの上に並べました。  一本一本、丁寧に、丁寧に。  …そうして、花が並べられたベッドはまるで、花のシーツが掛けられている様で。  …そして全ての花を並べ終えた女の子は、青いバラの花を一輪持ち、花のシーツが掛けられたベッドの上で丸くなり、目を閉じて、  とてもとても、幸せそうに微笑み、  すぅ、すぅと、穏やかな寝息を立てて、  深い深い眠りに、付いたのでした。  貴方はどんな花を、誰に、託しますか?  貴方はどんな花を、誰に、託せますか?
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