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「では、良いひと時を」
制服を着こなした受付スタッフは紳士的な言葉と共に青いバラを差し出した。受け取った青いバラをしっかり胸元にとめ、涼子は小さく会釈をした。
ホテルの中は、先ほどまで真冬の寒さに凍えていたことを忘れさせるほど暖かく感じた。厚手の服にしなくて良かった。ほっとして、大宴会場の扉を開けると、オードブルの香りとざわざわと楽しそう人々の姿が五感を刺激した。
右も左もテレビや雑誌、どこかで見たことがある人たちばかりだ。
やはり、場違いだったかもしれない。
安く見えないよう精いっぱい悩んで購入したドレスを見直し、涼子はため息をついた。
「お飲み物はいかがですか?」
声をかけてきた男性スタッフが持っていたトレーからオレンジジュースを取り
「ありがとうございます」
と頭を下げると彼は笑顔で去っていった。
私みたいな人間にも同じように接してくれるなんてやっぱりプロだなぁ……。
彼の後ろ姿をぼんやりと見つめていた涼子の肩に、とんっと何かがぶつかる感触がした。
「すみません……」
という声とともに深々と頭を下げた男性につられ、涼子も慌てて頭を下げた。
「いえ。私のほうこそすみません」
顔を上げた瞬間、涼子はあっ、と声を漏らした。
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