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涼子は静かにうつむき青いバラを見つめ唇をかみしめた。
「悠……だよ」
「いいよ。もうそういう慰めは」
「慰めじゃないよ。悠が事務所辞めるって知って、私どうしようもなく落ち込んで。それで彼氏とうまくいかなくなって別れたの。それからずっと悠のこと考えてた」
悠は少し驚いたような顔をした後、少し間をおいて
「……本気で言ってる?」
と聞き直し、涼子が首を縦に振るととはぁーと息を吐きしゃがみ込んだ。
「俺もずっと涼子のこと考えてた。今日見かけたときも、どうやって普通のふりして話しかけようかって。わざとぶつかって……」
悠と同じようにしゃがみこんだ涼子は悠の目をじっと見つめた。
「私、今日は無理して行かなくていいぞって社長に言われてた。でも悠が登壇するのも知ってたから、一目会えたら良いなって思ってたの。まさか話せるどころか、こんな風に一緒に抜け出せるなんて思わなかった」
「俺だって、涼子に抜け出そうって言ったときは内心ドキドキだった。断られたらどうしようって」
少しの間を置いて笑いあった後、涼子は悠がバラを握る手に自分の手を重ねた。
「悠の活躍はずっと私の夢だった。私の夢、一つ叶ったよ?」
その言葉に答えるように悠は、あいている方の手で涼子のバラを持つ手を握った。
「涼子がずっと歌を続けてくれることが夢だった。俺の夢も一つ叶った」
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