9人が本棚に入れています
本棚に追加
沈黙が走り、車内は瞬く間に静かになった。おもむろに悠がラジオをかけると、聞きなれた曲が流れてきた。今年一番流行った曲だ。
「これ悠のドラマの主題歌だった曲だね」
「うん。すげーよな、こんな曲書けるなんて。大ヒットだったし」
「もちろん曲もすごいけどドラマの人気もあるよ。悠のおかげでもあるね!」
「良いよ、そんなに無理して持ち上げなくて」
「持ち上げてなんかないよ。本当にそう思ってる」
「そう……」
再び静かになった車内で、曲のサビが力強く鳴り響いた。
ぼんやりと窓の外を見つめ、涼子はため息をついた。
もう二度と、あの頃には戻れないんだ。
分かりきっていた現実をつきつけられたような気分だった。
「ねぇ、悠。やっぱりローストビーフはいいや」
「えっ?」
車のスピードが少し緩やかになった。
「それより行きたい場所がある。そこに連れてってもらって良い?」
涼子の言葉に悠は眉をひそめたが、小さくうなずいた。
最初のコメントを投稿しよう!