9人が本棚に入れています
本棚に追加
車を降りるとひんやりとした風が吹いていた。
「んーやっぱ、海辺はちょっと寒いね」
慌ててコートを着た涼子に
「そりゃそうだろう。真冬にふ頭に行こうなんていう奴いないぞ」
と悠はため息をついた。
「えー昔はよく来たでしょ?ここなら大声出しても誰にも怒られないから」
「そうだったっけ……」
コンクリートにあぐらをかくように座った悠を見て
「その服高いんじゃない?」
と涼子は心配そうに言った。
「昔はよくこうして座ったろ」
「覚えてるんじゃない」
何も答えず遠くの方でちかちかと光る夜景を見つめる悠に、涼子はぽつりと言った。
「悠、本当はなんで音楽やめたの」
一向に表情を変えない悠に
「私に嫉妬したなんて嘘でしょ?」
と続けると、彼はふっと笑い
「嘘じゃないよ」
とだけ答えた。
「嘘。だって悠の方がずっと才能があったもん」
「才能?そんなもんないよ」
「あったよ。曲だって湧き出るみたいにどんどんできて、どれも良い曲で……」
「涼子に彼氏ができるまではな」
遮るように言った悠の言葉に、涼子は言葉をつぐんだ。
「気づいてなかった?俺の気持ち」
「何言ってるの?」
「なんでやめたのって、自分から聞いたんだろ?逃げるなよ」
最初のコメントを投稿しよう!