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「初めての子ですね、あの子。」
「そうなの?お客さんの顔全部覚えてるんだ。」
「ええ、そんなにたくさんお客さんが来るわけでもないですし。」
確かに、休日だというのに今日は菜々美以外、一人も客がいない。
「ところで、今日は何か買っていきますか?」
「うん。ちょっと彼と遊びに行くから花でも持っていこうかなと思って。」
「おしゃれですね。キレイなガーベラが入ってるので、花瓶にも活けれるように、合わせましょうか。」
「ありがとうね。」
菜々美はさっきの少年と違い、時間に遅れているわけでもないので、店内に入って切り花やミニリース、フラワーアレンジメントなどを物色し始めた。
「さ、これでどうですか。」
ピンクの包装紙に小ぢんまりとまとまったガーベラの花束を店主が手渡す。大きな花弁にまんまるとしたおしべがキャンディのように囲まれている。赤・黄色・オレンジ・ピンクと咲き誇るガーベラはさながらキャンディボックスのようだ。
「うわあ、可愛い!!ありがとうね。彼も喜ぶと思う。」
「それは、楽しみですね。早く持って行ってあげてください。」
菜々美は千円札を取り出し、カウンターに置く。
「本当にありがとうね。良かったら、とっておいてくれない。この前もタダでバラもらったし。」
店主は一度かぶりを振ったが、今回は黙ってお金を受け取ることにした。
「じゃあ、なんだか悪いけど、デートに行ってくるわね。それにしても、さっきの子可愛かったわね。私、お姉ちゃんしかいないからああいう弟欲しかったな。」
店主は意味ありげに微笑み、うきうきと桜並木の川沿いの道を駆け出す菜々美を見ていた。
「すぐに会えますよ。きっとね。」
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