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それから一週後の週末、菜々美はこれという理由はなく、近所をぶらぶらと散歩していた。今日は菜々美の彼に出張が入ってしまい、やむなく一人きりの休日となってしまった。  だが、菜々美は意外と一人の休日というのも嫌いではなかった。特に近所のいつも通らない道などをうろうろ歩いていると、思いがけない発見もあって楽しい。菜々美はそんな時間が好きだった。たまには、訳も分からず走り出してしまう日もあったが。 (あら、あの子・・・) 回り道をして、いつもの四つ辻に着くと先週の男子高校生が店の前でもじもじと店内の様子を伺っているのに気付いた。菜々美はこれから、普段行くことのない、駅方面と反対方向に進んでみようと思っていたのだが、どうしても目の前の男の子が気になってしまった。  かと言って、一週間前に見かけただけの男子高校生にいきなり声をかけるのもはばかられる。しかし、不思議と人が面倒を見てあげたくなるような雰囲気がある。本当は店によるつもりなどなかったが、自分が行けばこの内気な少年も入りやすくなるのではないだろうか、と思った。菜々美は男の子に偶然目が合ったように、さりげなく視線を合わせると、にっこりと微笑んでガラス戸を引いた。 「君も入ってみる?」 と尋ねる。少年はしどろもどろになりながら、もごもごと口ごもっている。やはり大人の女性と話すことは慣れていないのだろうか。 「あ、は、入ります・・・。」 耳まで真っ赤になっている。菜々美はどことなくこそばゆかったが、手で店の中に入るように促す。 「いらっしゃいませ。」 相も変わらず、教会のフレスコ画に描かれた天使のような微笑みで少年を歓迎する。 「何かお探しですか。」 「あ、あの・・・花がキレイだなと思って・・・、すみません。お金もそんなに持ってないんですけど。」 「ああ、大丈夫ですよ。そんなに高く売らないので、気に入った花があったら声をかけてくださいね。」 西風店主の声は高すぎず低すぎず、自然と安心してしまうような心地よい周波数を持っている。それが、少年の本音を引き出してしまったのだろうか。 「あ、でも・・・。男のくせに花が好きとか・・・変じゃないですか。」 菜々美は聞きながら、びっくりした。内気な少年なんだろうとは思っていたが、そこまで考えているとは予想もしなかった。確かに、若い人が花などに興味があるイメージも無いが、男だって花が好きな人も大勢いるだろう。  菜々美は自身の学生時代を思い返してみた。花よりもアイドルやゲームやスポーツの結果や少年誌の最新号などで盛り上がっていたが、園芸部に入っている男子もいたし、祖父の畑や親のガーデニングを手伝っている男子もいたと思うが。 「全然、変なんかじゃないよ。花が好きな気持ちに男も女も関係あるものか。」 と店主。 その言葉ににこっと笑い返した少年の顔がとても可愛らしかった。
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