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 菜々美のいない間に、孝太郎と西風店主は随分と仲良くなっていた。孝太郎は、小遣いの多いほうではないようで、この店に来るのも純粋に花が好きという気持ちと、店主とのおしゃべりが楽しいようだった。小遣いをもらえた日には、この少年は少年雑誌の最新刊でもスマホゲームに課金するでも古着屋に行くでもなく、花を一束買いに来た。時には、店主が半ば強引に花を押し付けることもあった。 「君、花は誰のために買っていくの、お母さん?それとも自分の部屋にでも活けてるの?」 孝太郎は、恥ずかしそうにもじもじしながら、答えた。まるで、デパートの店員に話しかけられたときの迷子みたいだな、と店主は思った。 「は、はい。あの、家に飾ってる時もありますし、後は友達にあげることも・・・。」 「へえ、友達っていつも待ち合わせしてる子?」 「はい、1年の時から同じクラスで、部活は違うんですけど、ずっと仲いいんです。」 店主はガラスケースから2本花を取り出して、顔を真っ赤にしてうつむく孝太郎に差し出した。 「この2つは僕のおすすめでね。この白い花はマーガレット、こっちは当然分かると思うけどチューリップだ。」 マーガレットもチューリップも人がそれと聞いて真っ先に思い浮かべるような、ありふれた見た目をしていた。真っ白の繊細な花びらに明るくて黄色いボタンのようなおしべをしたマーガレット。大きくて優雅な花弁は目の覚めるように真っ赤で、気品さえ感じさせるチューリップ。 「どちらか、君の大事な人にプレゼントするといいよ。」 孝太郎はほぼ直感的に花を手に取った。
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