1人が本棚に入れています
本棚に追加
7
次に菜々美が孝太郎に出会ったのは、ゴールデンウイークも終わり、天気が愚図つく日も混じってくるような季節だった。ちょうどこの日も空にどんよりと灰色の雲が垂れ込め、なんとなく気分の晴れない日だった。
孝太郎は、店の前で、しかし店に入ろうともせずぼんやりと立ち尽くしていた。心ここにあらずといった感じで、明らかに様子がおかしい。菜々美は心配になって、つい声をかけてみた。
「ねえ、大丈夫?具合が悪そうに見えるけど。お店で休まない?きっとお茶ぐらい出してもらえるわよ。」
少年ははっと我に返ると、消え入りそうな声で答えた。
「え、ええ・・でも迷惑じゃないですか。」
「そんなことないわよ!店主もあなたが来てくれれば嬉しいって!こんなとこで突っ立ってるのもなんだから、入りましょう。何かあったのなら私が話を聞いてあげるし。」
菜々美は孝太郎の腕を優しくとって、店の中へエスコートしてあげた。なぜ、こんなにもこの少年のためにしてあげたいという気持ちになるのだろうか、と菜々美は思った。
弟が欲しいという自分の願望の表出だろうか、それともこの子自身の持つ何かのせいだろうか、弱った動物のような瞳をしているからだろうか、花が好きだと言った時の可愛らしい笑顔のせいだろうか、と。今日の彼は菜々美の目から見てもとても痛々しく、そして自分がなんとかしてあげなければ、という気持ちにさせた。
「やあ、いらっしゃい。久しぶりだね。」
「あ・・・こんにちは。」
少しどもる癖もあるし、声も小さい。いつもどこか自信なさげに見える。この子、いじめられたりしれないかしら、と菜々美はあらぬ心配をした。
「最近、どうだい?なんだか落ち込んで見えるけど。」
図星だったのか、うつむいて肩を震わせている。きっと今にも涙がこぼれそうなのだろう。そしてやはり、私よりも店主の声の方が心を開くのかしら、と菜々美は少しだけ悔しい気持ちになった。
最初のコメントを投稿しよう!