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それを拾い上げた山里刑事が、
「これは?」
「ああ、今さっき届いたんです」
「届いた?」
封筒の裏面を見た彼は眉根を寄せると、
「こちらの住所を誰かに教えましたか?」
「母にだけ」
再び二人の刑事が顔を見合わせた。
「これ、私が開けてもよろしいでしょうか?」
私に問いかけてはいるが、その目は開けますよと宣言していた。
仕方なく首肯すると、彼は手早く封を切り、中味を引っ張り出した。それは二つ折りの黒い紙だった。それを開いてしばらく眺めてからこちらに向ける。
小さな白い花が貼り付けられていた。植物に疎い私にはその名前までわからない。
「何か、心当たりはありますか?」
山里刑事の質問には首を振るしかなかった。
すると山崎刑事が「それって……」と花を指差した。
「多分、パプリカの花です」
「ほう。よく知ってるな」
「だってほら、歌が流行ったじゃないですか。その時気になって調べたことがあるんです。ちなみに花言葉は……」
そこで彼女は口を噤んだ。
「どうした?」と山里刑事が促すと、山崎刑事は表情を固くする。
「花言葉は、『同情・憐れみ』そして、『君を忘れない』です」
同情・憐れみ・君を忘れない……と、何度も口の中で繰り返していた山里刑事が不意に視線を上げて私を真正面から見据えた。
「富田さん。黒川明は、本当にストーカーだったんですか?」
いいえと答えたかった。私と明は愛し合っていたのだから。でも、事務所の意向で別れさせられた。私は半年後にデビューを控えていた。その間に身辺整理を命じられたのだ。ところが明は諦めなかった。私と別れることを認めないどころか芸能界に入ることに猛反対した。だから事務所が彼を嵌めた。ストーカーに仕立て上げ、私に近づけないようにしたのだ。
そうまでしてデビューしようとする私を彼は憐れんでいたのか、それとも私の行く末を案じ同情してくれていたのかはわからない。確かなのは、最後まで彼は私のことを想ってくれていたということだ。
でも今さら全てを正直に話すことなんかできない。デビュー前のスキャンダルは命取りだ。
「もちろんです」
私は悲劇のヒロインを演じ続けるしかなかった。
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