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「そのせいで皆逃げていって、今の美術部は僕しか残ってないんだよ」  望月は、からりとした表情で自らを指す。なるほど、と私は頷いた。私は愛想のない幼馴染の、冷めた横顔を見た。そのきつい目つきと、それを覆い隠すような重たい長髪は、ひとを寄り付かせない。  結貴の人見知りは昔から深刻で、小学生の時に私と知り合った時も、彼女に同じ年頃の友達はいなかった。父親同士が同級生で知り合いだったことから、私は彼女と仲良くなったけれど、小学校も中学校も結貴には私しか友達がいなかった。  しかし、結貴は美術部に入って先輩たちに大層可愛がられたと聞く。いまだって、あの結貴が後輩と会話をすること自体、私にはとっては意外な出来事だった。 「望月、いらないことを言うな」  結貴は彼に棘をさす。それでも、彼は気にせずに軽い調子で、私に言った。 「先輩は、同期にも逃げられたんだよ」  彼はくすくすと笑うけれど、私にとって、望月が結貴と親しげに会話をする様子はなかなかに珍しく、すぐに頭で処理ができないことだった。  結貴は望月を恨めしげに睨みつけて、それから、教卓の引き出しから一枚の紙を取り出した。
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