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 それは、まさしくギョッと心臓を鷲掴みするような、サイケデリックな彩りのキャンバスだった。青色と橙色と黄色の、幾重にも重なる曲線が、行き来する白色の直線で汚されている。よく見ると、緑や黄緑の細い線もちらほらそこら中を泳いでいて、ますます不気味だ。どの色も凝ったものではなく、絵の具からそのまま出したような、ありふれていてはっきりとした色だった。それに、もはや絵筆で塗ったのかどうかも怪しいほど表面に凹凸が残り、甚だしき絵の具の量のムラがある。何より、この表現力が意味するものは、どことなくピュアな無邪気さでもあり、それがさらにすえおそろしい雰囲気をまとう要因となっている。私は理解した。 「もしかして、これがあなたの絵?」 「え? よく分かったね」  望月は驚いた、という表情だ。私は、これが彼の絵ではなければいいと思った。 「抽象画?」 「いや、風景模写」 「模写!」  驚きすぎて、口からこぼれるようにもう一度、模写、とつぶやいてしまった。 「どう?」  混乱する私をよそに、望月はおそるおそる私に感想を求めた。
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