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しかし、あまりの衝撃に、私は黙って彼の顔を見つめる以外に成す術がなかった。何も言葉が浮かんでこない。ただ、これから彼と二人で過ごす美術部のことを考え、暗い気持ちになっていた。
すると、私の硬い瞳の端に、望月の表情がしぼんだのがうつった。頬が垂れさがり、唇がヘの字に曲がる。
「結貴先輩には、犬のほうが人間として成熟した絵を描くって言われた」
私は再度その絵を見て、何か声をかけたかったけれど、何も言えなかった。ただ、なんだか、部活がひとつ廃部になる絵だろうなと思う。
「ちなみにこれは、海に行った時の絵なんだ。撮った写真を見ながら描いた」
「そ、そうなんだ。いったい、何が描かれているの?」
私が尋ねると、望月は唇を尖らせ、おずおずと答える。
「……一応、海と砂とパラソルと人間」
私は、海と砂とパラソルと人間に、似ても似つかないその絵を見つめた。私は美術部に必要だ、という実感が湧いて出てくるような絵だ。しかも、迅速に行動に移す必要があるように感じたので、私は望月に尋ねた。
「次のコンテストは、いつになるの?」
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