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 望月と出会ったのは高校二年生の春だった。幼馴染の結貴が私に、美術部に入らないかという話を持ち出したとき、彼女は望月のことを話した。 「一つ上の先輩が卒業して、美術部は私ひとりだけになるはずだった。でも去年、絵が下手な一年生がひとり入ってきたの。それで、この春に私は受験があるから部活を辞めなくてはならないのだけれど、私がいなくなると部員が彼ひとりになる。美香は絵が好きでしょう。どうだろう、美術部で絵を数枚描いていてくれないかな。もし生徒会の監査がはいったら、美術部が廃部になってしまいそうなくらい、ほんとうに彼の絵はひどい」  彼女が言うには、美術部が部活動として活動していると認定されるために、年に数回のコンテストに出品しなくてはならないという。出品をすることにより、公式な活動履歴として記録され、部費などの経費の調整が行われる、重要な活動なのだという。しかし、たった一人の後輩である彼の絵は、出品するに値しない精度らしいのだ。 「え、でも、四月だから、他に新入生が入ってくるんじゃないの? そしたら、人足りるでしょう」
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