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「いや、あの美術部、なかなか人が入らないから。去年も一人だったし、今年も何人か見学にきたけど、油絵なんて汚れるからってぜんぜんダメ。新入生はあてにならないの」  たしかに、この学校は美術系だけでも三つの部活がある。一番の古参が結貴の美術部で、あとはCGを使ったグラフィックアート部や、漫画研究などに偏ったコミックアート部があり、美術部より断然部員が多く設備も整っているのだ。新入生が入らないのも、うなずける。 「受験が終わったら美術部に戻ってくるつもりだから、そのときまで美香に美術部を守っていてほしい」 「何回か絵を描いて、コンテストに出すだけ?」 「うん。それだけ。簡単でしょう?」 「そうだね。結貴がそこまで言うのなら」  高校入学からずっと部活動に参加してなかった私は、放課後の時間を持て余していたので、幼馴染の結貴の頼みを断らなかった。昔から絵を描くのは好きだったし、内気な彼女が私を頼ってくれたのが嬉しかったのだ。私は二つ返事で美術部に入部することを決めて、その日のうちに美術室へ足を運んだ。  そして、望月と対面することになった。
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