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「美香、とりあえず入って。美術部のこと、説明する」
結貴は頬にかかった自らの横髪を手で払いながら、私をつついた。結貴に手を引かれるまま、美術室の中に足を踏み入れる。
初めて入った美術室は、奇妙な匂いがした。
薬品のような匂い。それに、空気がどこかよどんでいて、油っぽい。白い生首の彫刻や、空き缶やリンゴの置物など大小さまざまなオブジェクトが壁際にズラリと並び、焦げ茶の木材で作られた簡易的な机と椅子が、そこら中、不規則に積まれている。正面には古めかしい黒板があり、窓際には見慣れない形の水道の蛇口と流しがあった。いたるところに絵の具らしきものが染みついていた。これからの放課後をこの空間と共に過ごすことを考えると、一抹の不安が過ぎる。この美術室はあまりに清潔感に欠けていた。
結貴は、部長らしく堂々とした足取りで美術室の中央まで進み、説明を始めた。
「大体は、コンテストに向けた油絵の作品を、ただひたすら作るだけ。昔からの常連校だから、毎回出品してる」
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