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薄暗い照明の中 米国の西部劇を彷彿させるカウンター内でこの店のマスターが何かカクテルを造っている。
「マスター いつものレッドアイくれる 子安は何にする?」と二人の客の常連らしい小太りの男性が 連れの小柄な男に聞けば
子安(こやす)と呼ばれた小柄は「打越(うちこし)課長お薦めの店ですね マスターさん 僕はまずは黒ビールエール系あります?」
カウンター内のマスター まだ若いのだがどこか世の中に背を向けているような雰囲気を漂わせつつ
「黒ビールですね エール系 ドイツのシュヴァルツあたりいかがでしょう?」と答えながらそれに頷く子安の姿を確認しつつ カウンターの一番奥の席にいる客にカクテルを出します。
そちらを見た 打越課長がまん丸の目をさらに丸くしては 「ああ 語部(かたりべ)さん 久しぶりです どちらか旅にでも出てたんですか?」と奥の照明があまり当たらない奥の席に声をかけるのを聞いたマスター
「ええとそちらはシュヴァルツですね。語部さんはクリスマスの喧騒避けて東北に行ってらしたそうですよ」と打越課長にレッドアイ(トマトジュースとビールのハーフカクテル)を差し出します
自分で頼んでおきながら 打越氏
奥の席の黒い陰 頭には屋内なのに中折れ帽子を被ったその語部と言う陰のように黒い男のシルエットに声にかけます
すぐ横で 子安氏「先輩 語り部さんって この店 そう言う方が何か語ってくれるんですか?」と小声で聞けば
それが面白かったのか?
いきなり 澄み切った低温ボイスで 語部と言う奥の客が「苗字が語部 と言うんですよ 語部 尽(かたりべ じん)と申します しかし あながち 語り部って言うのも当たっていますがね 打越さん」
「子安君 この語部さんはこの店の主みたいな存在でね 店の奥にいる時は いろいろな話をしてくれるんだよ ジンベースのカクテル一杯でね 語部さん 東北で何か面白い話ありましたか?」
「そうですね では一つ語りましょうか」
「バー夢幻」の語り部物語
いよいよ開始です
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