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「……えっと……何か、ごめん」
「気にするな。付き合いの長いお前には、いずれ話すだろうとは思っていたからな」
「…………」
全然知らなかった。
だって、そんな素振り、一度も……。
(いや……敢えて、見せないようにしてたんだろうな)
多分、互いに名字呼びなのもその一環だろう。
名字で呼ばれるのをあれほど嫌がる周が、それを受け入れているのだから。
「とはいえ、離婚したのは俺たちが物心つく前だったから、俺たちにはあまりその意識はない。ある日突然その事実を聞かされた時は、さすがに天地がひっくり返ったがな」
「ひっくり返るわなそりゃ!!」
「柴山は平常運転だった」
「怖えええええええ!!」
(もう少し戸惑えよ!! どんだけ周りに関心ないんだよ!?)
「まぁ、あいつの母親はその……クラブのママとかやってる人だからな。男女のいざこざとかは、柴山にとっては日常の一部に過ぎんのかもしれん」
「嫌だなそんな日常……」
本に没頭するのも頷ける。うってつけの現実逃避先じゃねぇか。
まぁ、紀子の場合は現実逃避とかじゃなくて、単に男女のいざこざに興味がなかったから、本に没頭したんだろうけど。
(でも、それってすごいことだよな……)
紀子は、周りの言動に振り回されない。周りで何が起ころうが、何を言われようが、あいつはただ、自分の好きなことに没頭し続ける。
それはきっと、確固とした自分が存在しているからできることだ。
(……全く。どっちが女子だって話だ)
「……なぁ、周。オレ、伝えるよ。この気持ち」
「蝉川、お前……」
「花言葉で」
「花言葉っ!?」
「ほら。あいつ今、花言葉を調べてるだろ。小説の題材にするとか何とかで」
「普通に告白すればいいだろ!? 言うまでもないだろうが、あいつは恋愛に関心が無い故に恐ろしく鈍いぞ!!」
「分かってるよ!! でもいきなり告るとか怖ぇじゃん!!」
「お前は女子か!!」
「もう女子でいいよ!! ちくしょう!!」
かくして、オレは貴重な土曜日を、野郎と共にネットで花言葉を調べることに費やした。
***
そして、紀子の誕生日当日。
「……ナニソレ」
「何で棒読みなの!?」
「いや、だっていきなりお前が花束持ってくるとか、何か馬鹿なこと考えてるとしか思えないし」
「オレのイメージどうなってんの!? 今日お前の誕生日じゃん!! 18歳の!!」
「え……あぁ、そういえばそうだったわ」
「……紀子さ、何で毎年、自分の誕生日忘れんだよ」
「いや、誕生日って一歳老けるだけだし」
「もう少し楽しいこと考えようぜ!!」
「まぁ、とりあえず受け取っておくよ。ありがと」
「お、おう」
おずおずと差し出すオレの手から、紀子はひょいと花束を取った。
「でも、花束なんて随分凝ったプレゼントだね。これは……リナリアか」
「そ!! ほら、紀子さ……最近、花言葉調べてただろ? たまにはその……こういうのもありかなって」
「…………」
色とりどりの小さな花の集まりを、紀子はじっと凝視している。
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