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 打合せを終えた俺は、ビルのエントランスから外を睨みつけていた。 「やっぱり降って来たな。どうする? 俺と相合傘する?」  上村課長が小さな折り畳み傘を広げながら俺に笑いかけた。そんな小さい傘に男二人とか勘弁してほしいんですけど。……とは言えないけど。 「いや、大丈夫です。もう帰るだけですし、コンビニまで走ります」  そう答えると、上村課長は転ぶなよ、と笑って先に出ていった。少し待ったら落ち着かないかと思って五分くらいその場にいたけれど、落ち着くどころかさっきより勢いを増してきている。  覚悟を決めて自動ドアから飛び出すと一気に通りを駆け抜けた。たしか、その角を曲がったところにコンビニがあったはずだ。角を曲がる直前でスピードを落として、(ひさし)に滑り込んだ。  ガラスには濡れ鼠になった自分の姿が映っている。このまま店内に入るのが憚られ、鞄の中のハンカチを探していると、先ほどの俺と同じように庇に逃げ込んできたやつがいた。 「雨すごいですね。あの、これ、使います?」  柔らかい女性の声に顔を上げると、あ、と声を上げる。さっきの受付の女、遠野さんだった。 「先程はどうも。えっと、上村さん?」  遠野さんは上司の名前を俺の名前だと思っているようだった。一度出した手前、引っ込められないようだったタオルを礼を言って受け取る。 「それ、俺の上司の名前。俺は石崎(いしざき)っていいます」
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