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 雨に当たったのが良くなかったようで、久々に熱を出してしまった。重たい身体をなんとか動かして、上村課長に休ませてほしいと連絡すると、やっぱり俺と相合傘するんだったな、という冗談と、今日はよく休んで明日は出てくるように、という言葉をもらった。  冷蔵庫に入っていたミネラルウォーターを一口飲んで、そのペットボトルを首元に当てる。ひんやりとして気持ちいい。とぷんと水が揺れる音がして、俺はそのまま意識を手放した。 ○ ☽ ○  サヨコと俺の真夜中の水泳教室は、十四日目を迎えようとしていた。サヨコは泳いだことがないと言っていたが、身体能力が高いのか、俺が熱心に教えなくてもあっという間に25メートルプールをクロールで泳ぎ切れるようになった。  随分とほっそりとしてしまった月のせいで、プールサイドはかなり暗い。正直これほど暗いと、こんな中泳ぐのは危ないのではないかと思う。  フェンスが揺れる音がして、目を向けるといつものようにサヨコがやってきた。初めて会った日以降は、Tシャツに薄手の黒いパーカー、スキニージーンズ、そして長い髪をキャップで隠した少年のような出で立ちで現れるようになった。理由を(たず)ねると、「女の子っぽい恰好して夜中に出歩くと、煌太がうるさく言いそうだから」と口を尖らせて言っていた。
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