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やたらと可愛らしい包装紙のそれを鞄の奥に仕舞い込む。待ち合わせ時間まではあと五分。店の外に出ると、ぽすんと胸のあたりに頭がぶつかった。ふわりと花の香りが漂って、思わず抱きとめる。サヨコだった。
「あ、ごめんなさい」
謝りながら顔をあげたサヨコは、ぶつかった相手が俺だとわかったからか、気の抜けた顔になった。今日は白いブラウスに水色のフレアスカートという服装で、品のあるサヨコの顔立ちによく似合っている。ただ、先程見かけたサヨコらしき少女と服装も同じで、消えてしまった鞄の行方が気になった。
だが、そこに突っ立っているのが迷惑だと言わんばかりに通行人に体当たりされる。実際、俺たちはすごく邪魔だったと思う。俺はサヨコの手を取って店から離れ、人の少ない通路に移動した。サヨコの手は、いつもよりちょっと熱くて、汗ばんでいるようだった。
「煌太、今日は来てくれてありがとう」
「こちらこそ、誘ってくれてありがとう」
妙によそよそしい挨拶を交わした後、映画館に移動した。見たい映画があるのかと思っていたら、映画館に来たことがなくて、行ってみたかったのだとサヨコは言った。
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