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 パンケーキを早々に食べてしまうと、迷惑だろうと思いながらも俺たちは水をちびちびと飲んでカフェに居座った。サヨコはさっきの映画の話をしていた。家で観るのとは迫力が全然違う、と本当に楽しそうで、俺はまた連れていってあげたいと思った。 「そろそろ帰るか。家まで送っていくよ」  カフェを出て並んで歩きながら、軽く握った手はそっと離された。サヨコは一歩引いて、首を横に振る。 「あのね、煌太。わたし、明日引っ越すの。だから、もうあの学校にも行かないし、もうきっと会うこともない。最後に素敵な思い出ができて嬉しかったわ。短い間だったけど、本当にありがとう」 「え? 最後とか、思い出とか……もう会うこともないとか言うなよ。新しい住所は? 俺会いに行くから」  もう一度手を強く握ると、サヨコはぽろぽろと泣き出してしまった。 「遠いところに行くから。きっと簡単には会えない。それに、うちはよく引っ越すの。だから、友達とか親しい人は作らないようにしてきたの。別れが辛いのはわかっていたのに……煌太、ごめんなさい」 ……わたしたち、出会わなければよかった  消え入りそうな声で、でも、たしかにサヨコはそう言った。そのまま俺に背を向けて歩き出してしまったサヨコを俺は追いかけることができなかった。  その日の夜、俺は学校のプールでサヨコを待った。いつまでも彼女は来なくて、朝方に帰宅した俺は母親に怒られた。  サヨコは満月の夜に現れて、新月の夜に俺の前から消えた。
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