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 佐原は甲斐甲斐しく世話をしてくれた。と言っても、着替えを手伝って、スーパーで買ってきたレトルトのお粥を温めて食べさせてくれただけなのだが。 「何で来たんですか? 今日はさすがに相手できないですよ」  空腹が満たされ、だいぶ体の調子が良くなっていた。とはいえ、彼女を満足させられるほどの体力の回復はできていない。 「別に私だって今日はそんなつもりで来てないわよ。先輩として、石崎くんの様子を見に来ただけよ」  俺たちは基本的には先輩後輩の関係だ。俺は佐原に敬語を使うし、佐原は俺のことを『石崎くん』と呼ぶ。ただ、月に何回か、佐原の部屋か俺の部屋で体を重ねることがある。そのときだけは、お互いを『紫』、『煌太』と呼び合う。  きっかけは、本当にどうしようもない。一度だけ関係を持った女の子にビンタされている場面を佐原に目撃されたのだ。彼女が立ち去って視界が開けたところに佐原はいて、好奇心の眼差しが同情の色に染まるのを感じた。付き合っている彼女にフラれた場面とでも思ったのだろう。佐原は俺の肩に手をかけ、一杯おごってあげる、と言ったのだった。
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