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 それから俺は特定の恋人を作ることを避けている。女の子たちは、甘い言葉をかけると驚くほど簡単についてくる。だから、優しくしてあげるかわりに、欲望の赴くまま抱かせてもらう。ギブとテイクだ。二度と会うこともないはずだったし、向こうも了承済みだと思っていた。俺が名前を忘れてしまったその子は、俺のことをしっかり覚えていて、好きになっちゃったから付き合ってほしいと迫られた。で、断った結果がビンタだった。  いつか離れていくことを恐れるくらいなら、付き合わなければいいのだという俺の持論に、佐原は臆病なのね、と笑った。 「それで、一回限りの関係を繰り返して自分を擦り減らしてるんだ?」  自分を擦り減らしているといる表現はぴたりとはまる気がした。体は満たされても、心が満たされない。それどころか、カラカラに乾いていく。 「じゃあどうしたらいいんですか」 「わたしも教えてほしいわ」  佐原が寂しげに笑った。グラスの周りにできた小さな水たまりに指を突っ込んで、線を一本引く。線はすぐにちぎれて、いくつもの水滴に変わった。
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