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 どうしてだろう。今日は一人の部屋が寂しくて、心細い。目を閉じると思い出すのは、サヨコじゃなくて、遠野さんの唇の柔らかさ。髪の匂いだって、似ているだけできっと違うのに、上書きされてしまうようで、俺の記憶の中のサヨコがいなくなってしまうようで、こわい。  今までだって、俺が声をかけるのはサヨコにどこか似た女の子だった。それでも、似ているのはだいたい一パーツ――主に口元のほくろだけど、目元とか匂いとか――で、この子はサヨコとは違うってちゃんと認識できていた。  もしかして、本当に遠野さんはサヨコだったりするのだろうか。でも、苗字が違っていた。ということは、すでに結婚しているとか。そうだとしたら、『間違えてみたい』発言の辻褄も合う。一夜限りの関係を欲しているのではなく、不倫相手にでもなれということか? それは、ぞっとするな。旦那に見つかって、俺はグーで殴られて、会社も下手したらクビになるかもしれない。……遠野さんには近づくのはやめよう。危険すぎる。
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