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 結局フレンチには行かなかったけれど、いつもよりは少しだけ洒落た店に連れてきた。金曜の夜ということもあって、店内は賑わっていた。テーブル席は空いていなくて、カウンター席に通される。隣の席はカップルなのだろう。仲睦まじく肩を寄せ合って座っている。隣に座る佐原を横目で見て、俺たちだって周りからすればそういう風に見えているのかもしれないと思った。  佐原とは以前からよく仕事終わりに飲みに行っていた。仕事もできて、美人で、人生何もかもうまくいってるんだろうなって、俺はどこか冷ややかな目で佐原を見ていた。実際の彼女は恋愛に関しては全然ダメで(俺が言えたことじゃないけど)、たまに甘えたりすると、狼狽えたりして、そういう反応はすごく可愛いと思った。 「ねぇ石崎くん。私たち、同じタイミングで新しい恋なんてできないよね。もし、どちらかが先に恋人ができたら、残されたほうはどうなるんだろう」  なんとなく始まったこの関係には、守らなければならないルールも、終わりにする条件もしっかりと決まっていなかった。新しい恋と言われ、また遠野さんの顔がちらついた。違う。あの人には関わらないと決めた。
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