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紫はいつから俺のこと好きになっていたのだろう。決して酒に弱いわけではない彼女がこんなに酔うのは珍しいことで、酔わなければあの質問もできなかったのだろうかと想像するといじらしい。
店を出た後はふらふらとして俺に体重を預けてくるばかりで、タクシーを捕まえることにした。窓ガラスの冷たさと紫の身体の温かさに挟まれながら、通り過ぎる光の波を眺めていた。ふいに腕を掴まれて、紫の顔を覗き込んだが、目を閉じて眠っている。無防備な寝顔見せちゃって、可愛い。紫の緩くパーマのかかった髪を撫でた。
数十分の道のりでひと眠りしたからか、紫はすっきりとした表情で目を覚ました。開いたドアから降りるよう促すと、あんなに酔っていたのが嘘みたいに、すっと立ち上がった。
「石崎くん、どうしたの? 早く降りてきなよ」
眠っていたのは俺なのかと思った。あまりにもいつも通りの紫に困惑しながら、タクシーから降りる。
「紫、俺のこと好き?」
静かになった道路の真ん中、紫を抱きしめる。ジンジャーエールみたいな香りはだいぶ薄まっていて、自分のか紫の口から感じるアルコールの匂いにくらくらとする。
「何言ってるの? 早く部屋入ろうよ」
俺の腕からするりと抜けて、紫は早くドアを開けろと言う。なんだよ。俺のこと好きって言えよ。
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