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 サヨコはプールから上がると、脱いだ時と同じように躊躇いなくワンピースを頭から被った。 「タオルとかないの?」 「持ってきてなかったの。今日は入るつもりなかったから」  サヨコは襟元から長い髪を引っ張り出して、ギュッと絞った。俺はあの綺麗な髪が塩素にさらされるのはもったいないな、と思った。それから何の気もなしに彼女の胸元を見て、ぎょっとした。暗いし、生地も黒いからそこまで目立たないけれど、ちょうど水着の形に染みが広がっている。 「家ここから近いの? 送っていくよ」  サヨコは唇をきゅっと結んで、俺のことを不思議そうに眺めた。 「必要ないわ。一人で帰れるもの」 「いや、そういう話じゃなくてさ。女の子をこんな時間にそんな格好で一人で帰らせるわけにはいかないって」  背を向けてフェンスのほうへ一歩踏み出したサヨコの手首を掴んだ。振り向いたサヨコは大きな瞳で俺を見上げる。濡れた前髪から滴が落ちて、長い睫毛に引っかかった。サヨコは何度か瞬きをすると、またフェンスのほうへ歩き始めた。俺の手を振りほどこうとはしないので、そのまま黙って彼女の後をついていく。
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