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 あのとき感じた息苦しさの意味を見つけ出せないまま、遠野さんと出会ったあのビルを訪れた。会いたくないと思うと会ってしまうのは、どうしてなんだろうな。まあ、いるとは思っていたけど。受付に座っている遠野さんを見て、深い溜息が漏れた。  できるだけ平静を装って声をかける。遠野さんはまたあの温度感のない笑みを貼り付けたまま、事務的な対応をする。俺たちの間には何もなかったみたいな空気で、安心したような、少し焦れるような。  入館証を受け取って背を向けると、石崎さん、と後ろから呼びかけられる。振り返ると、遠野さんは受付カウンターから出てくるところだった。 「あの、少しだけお話したくて。この前のコンビニで待ってます」  それだけ言って、遠野さんはカウンターの向こうに戻っていった。返事する間も与えられず、一方的にボールを投げられて困ってしまう。直接話す以外に連絡する術を持たない俺には、無視して帰るという選択肢はほとんどないように思えた。
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