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抜け穴の前まで来て、サヨコはまた俺のほうを向いた。
「あの、放してもらえるかしら? それから、スカートの中覗くのは、やめてね」
微かに頬を染めて、サヨコはそう言った。この子にも恥じらいという感情があったことに俺は少し安心した。手を離して、横を向く。
「出たら声かけて。絶対一人で帰ろうとするなよ」
サヨコがしゃがんだのを視界の端で確認する。
それにしても、この抜け穴のこと知ってるやつが他にもいたなんて。
「あの、もう大丈夫よ」
フェンスの向こうからサヨコの声がして、彼女の後を追った。サヨコはワンピースや膝小僧に砂をたくさんつけたままそこに立っていた。
「子どもかよ」
俺は小さく呟いて彼女の膝の砂を払い落とした。そのままワンピースにも手をかけると、自分でできるわ、と手を払いのけられてしまった。結局、濡れているせいであまり取れなかったみたいで、サヨコはしばらく俯いていた。
「そういえばあなたの名前を聞いてなかったわ」
少し前を歩くサヨコが振り返った。
「煌太。この学校の三年二組」
サヨコは大きな目をさらに見開いた。
「あら、そしたらあなたのほうが年上だわ。ごめんなさい、わたし、勝手に同い年と思ってました」
「いいよ、今更。変にかしこまられても気持ち悪いから」
サヨコは唇の端を引き上げて、じゃあそうさせてもらうわ、と言った。
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