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 俺が謝ると、遠野さんは声を出さずに首を横に振った。俺は鞄の中で少し折れ曲がったポケットティッシュを取り出して、遠野さんに渡した。 「わたし、ちょっと面倒な体質で、普通のデートとかできないんです」  遠野さんは俺が渡したティッシュを何枚か出して、目元を拭いながら話し始めた。 「お誘いいただいても、それを理由に断ってしまうことが多くて……でも、理解してもらえなくて、お高く止まってるとか言われたりして」  そのっていうのがどんなのかわからないから何とも言えないけど、美人っていうのは生きにくいんだろうなと少し同情した。その婚約者はその体質も受け入れてくれるということなのだろうか。だとしたら、そいつと存分にデートでも恋愛でもすればいいじゃないか。なんて言ったら遠野さんはまた泣いてしまうんだろうか。 「その面倒な体質っていうのはどんなもの? 言いたくなければいいけど」 「日光アレルギーなんです、わたし」  聞いたことのある単語だと思った。日光アレルギー。たしか、サヨコがそうだと言っていた。サヨコがいなくなってから、一度調べてみたことがある。日光に当たると蕁麻疹が出てしまうとか。ああ、だからか。この前見かけたとき、長袖なんか着て、帽子にサングラスなんかしていたのは。でも、あれはあれで様になっていたし、悩む必要なんかないように思えるけど。
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