8/12

94人が本棚に入れています
本棚に追加
/98ページ
「あ、あの……?」 「あ、ごめん」  そっと手を離すと、遠野さんは暑いですね、とぱたぱたと手のひらで顔を扇いだ。それから、長い髪を後ろでひとつに結い上げる。白くて綺麗な首元に目が吸い寄せられそうになった。 「あのさ、デートはできないけど、今日みたいに食事だけなら構わないけど」  一般的にはふたりで食事だって立派なデートだ。何言ってるんだろうなって自分でも思う。だけど、俺は彼女との接点を持っておきたかったのかもしれない。 「いいんですか? そしたら、石崎さんが打合せでいらっしゃるときにでも、またお食事行きましょう!」  遠野さんにとっては、食事はデートにならないらしい。気持ちが伴われなければ、男女ふたりが一緒に過ごしてもデートにならないのかもしれない。そんな思考に到達して、溜息が漏れた。俺は、彼女に意識してもらいたかったのか。
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!

94人が本棚に入れています
本棚に追加