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「でもさ、何で俺だったの? デートの相手」  俺の問いかけに、遠野さんはさっと表情を曇らせた。 「あの、失礼な言い方になっちゃいますけど、慣れてそうだったから。ですかね……」  少しだけ期待していた自分がいて、本当に馬鹿だと思った。何か……俺が遠野さんに感じているような特別な感情みたいなものがあって、それで俺を選んでくれたのではないかとどこかで思っていた。 「ふうん、なるほどね。じゃあ、慣れてそうな俺とデートして、何が得たかったの? あ、それとも失いたかった?」  また、棘のある言い方をしてしまった。遠野さんは静かに瞳を閉じてしまう。 「あー……ごめん。でもさ、例えば俺があの夜に君のことを抱いていたとして、それは遠野さんのためになった? 遠野さんの言う通り、俺は結構恋とか愛とかに関係なく、そういうことしてきたけど、満たされたことなんてなかったよ」 「……じゃあ、今お付き合いされている方は、石崎さんのことを満たしてくれているんですね」  ゆっくりと俺と目を合わせた遠野さんは、優しく微笑んだ。俺はずっと、愛に飢えていたのだと思う。だから、紫が与えてくれる包み込んでくれるような愛情は本当に温かくて、嬉しかった。  だけど、満たされているかと問われたらどうなのだろうか。その疑問は湖に投げ入れられた小石のようだった。波紋は次第に大きく広がっていく。幸せなはずなのに、何かが物足りないと喘いでいる。
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