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 サヨコの家は学校から歩いて十分とかからないところにあった。二十五時過ぎの住宅街はしんと静まり返っていて、俺たちの会話はあちこちで聞き耳立てられてるんじゃないかと思ってしまうくらいだ。 「そうだ、連絡先教えてよ。明日会うときに連絡できたほうがいいだろ?」  サヨコは眉尻を下げて、首を横に振った。 「残念ながら、わたし、携帯電話を持っていないのよ」  このご時世にそんなことあるのだろうか。(てい)良く俺に連絡先を教えるのを拒んだだけなのではないかと訝しんだ。 「わたしね、学校に行くときはツバの広い帽子をかぶって、サングラスして、顔の下半分も覆って、長袖長ズボンなの。そんなんだからね、気味悪がってだぁれも話しかけてくれないの」  だからね、とサヨコは俺に近寄ってくる。 「家族以外に一件も登録のない携帯電話なんていらないでしょ。見るたび悲しくなっちゃうもの。でも、今日あなたと、煌太と話せて楽しかったわ」  サヨコは俺の頬に唇を寄せて、これはお礼よ、と笑った。俺は女の子にそんなことされたのは初めてで、サヨコになんて返事をするのが正しいのかわからなかった。
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