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一緒にカレーを作って、ビールを飲みながら食べる。俺が切った人参はすごく不格好で、見つける度に笑ってしまった。
食後にテレビを見ていたら、紫がスマートフォンの画面に目を落として、あ、と声を漏らした。それから目を細めて優しい顔で笑う。
「どうしたの?」
「友達の子ども、二人目が生まれたらしくて。すごく可愛いの」
そう言って写真を見せてくる。夫婦ふたりと長女、そして生まれたばかりの赤ん坊が写っていた。
「もしかして……」
「あ、そうそう。私の親友とずっと好きだった彼」
「そんなの見て辛くない?」
「うん。実は私もびっくりしてるの。今は煌太がいるからかな。やっぱり新しい恋すると、昔の片思いなんてどうでもよくなっちゃうものなのね」
そういうものなのか。じゃあ俺は? 俺の紫への気持ちは一体なんなんだ。ちゃんと愛しているはずなのに、サヨコに再会してこんなにも胸が騒ぐのは何故なのか。
「煌太。一緒にいてくれてありがとう。今、すごく幸せなの」
「紫、愛してるよ」
愛してる。言葉にしたら確かなものになると思っていた。それなのに、胸の中の違和感が消えなくて戸惑う。紫は少し驚いたような顔をしたけど、私も、と言ってくれた。だけど。キスをしても、抱きしめても、体を重ねても、どこか虚しい。愛しているはずなのに。
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