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今日も受付にはやっぱり遠野さんがいた。だけど、いつもと違った。目が合った瞬間に花が咲いたみたいに顔を綻ばせる。入館証を俺の手に握らせながら、あのコンビニで待ってます、と小さい声で言った彼女に、俺はただ、頷いた。
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打ち合わせを終えて、受付を横目にロビーを通過する。俺は迷うことなく件のコンビニに足を向けていた。ガラス越しに遠野さんを見つけて立ち止まると、彼女も気づいて小さく手をあげてから外に出てきた。
「石崎さん、お疲れ様です」
「ごめん、結構待った?」
「いえ、全然大丈夫です。どうしましょう、この前のお店でいいですか?」
「うん。次はこの辺の店調べておくよ」
次は、とか言って、先回りで約束した自分がみっともなくて、笑えた。遠野さんが少し前を歩いて、俺はその後についていく。建付けの悪い戸を引いた瞬間、タバコの匂いとたくさんの笑い声に包まれた。
「そういえばタバコとか平気なの?」
「うーん、自分では吸おうとは思わないですけど、この店のは慣れちゃったというか。あ、すみません。石崎さんは苦手でしたか?」
「いや、大丈夫。俺も吸わないけど」
前回と同じ席に通され、向かい合って座る。薄桃色の唇に目が行ってしまい、顔を背けた。彼女が何も言ってこない以上、この前のキスについては不問にすべきだと思った。
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