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 遠野さんはすごく美味しそうに食べる。お通しのきゅうりとか、軟骨の唐揚げとか、しゃくしゃく、さくさく、といい音がしてくる。そういえばあのとき――映画館でチュロスを食べたときも美味しそうな音させてたっけ。思い出したら笑ってしまった。 「なんですか?」  口の周りに何か付いてると思ったのか、両手で顔の下半分を覆って、警戒するような視線を向けられる。 「いや、遠野さんって美味しそうな音させて食べるなって思って。よく言われない?」 「ええ? そんなこと初めて言われました」  もっと食べな、と軟骨の唐揚げの皿をそっと彼女のほうに押し出すと、もう恥ずかしくて食べられません、とはにかみながら遠慮された。 「恋愛できないって言ってたけど、それって恋人ができなかったってことだよね。好きな人とかは?」  箸を置いて訊ねると、遠野さんは困ったように視線を彷徨わせた。 「好きな人、ですか……わからないです。周りの人に対して、特別な感情を持たないようにしていたので。父が転勤族で……仲良くなってからのさよならが辛かったんです。両親は離婚しましたし、それに今はもう転校とかそんなものに怯える必要はないんですけど。もう癖になってしまったのかもしれないです」
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