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「久しぶり。ごめん、急に」
「いや、いいよ。何? この前言ってた彼女の惚気話?」
俺は誰かに話を聞いてもらいたくなって、大学時代からの親友である金田を飲みに誘った。金田はゼミの仲間だった。卒論提出間際はオンライン通話でお互いに励まし合いながら明け方まで書いていたことはいい思い出だ。少なくとも俺は、金田のことを戦友のようなものだと思っている。
「ああ、まあ。とりあえず乾杯しようぜ」
ジョッキを持ち上げて、ガチっと音を立てて乾杯をする。この店のオススメという氷漬けの檸檬が大量に入ったサワーは、まだ溶けていないからかほとんど焼酎の味しかしなかった。カラカラと音を立てて撹拌する。
「なんか、悩み? 惚気話って顔じゃない」
お通しをつまみながら近況報告を終えたタイミングで、金田に指摘される。人の表情をよく見ている彼は、悩みを引き出すのがうまい。いつも先回りして話を切り出してくれる。
「さすが、鋭い」
苦笑いしながら答えると、軽く鼻で笑われる。
「いや、お前がわかりやすいだけ。それで?」
「うん……金田はさ、昔好きだった人に再会したらどうなる?」
「どうって……何その質問。石崎はどうなるの?」
ジョッキに手を伸ばして一口飲む。さっきよりは檸檬の味がした。蜂蜜みたいな甘さが抜けると、ほろ苦さが残った。
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