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「……この話、たぶん長くなるけど平気?」
「はは、そんなこと気にするなよ。とことん付き合うよ」
明日はお互い予定もないから、エンドレスで飲んでいられる。さすがに、学生の頃とは違うから、徹夜するつもりはないけれど。もう一度ジョッキをぶつけ合ってから、俺はサヨコのことを話し始めた。
昔、好きだったこと。
想いを伝える前にいなくなってしまったこと。
特定の相手を作らずに奔放な生活を送ってきたこと。
それでも紫という恋人ができたこと。
そして、サヨコと再会したこと。
「ずっと会いたかったはずなんだよ。だけど、再会した今は苦しいだけだ」
「苦しい? どうして?」
「それがわからないから困ってる。俺、おかしいのかな。紫のこと大切にしたいと思っているのに、サヨコのことばかり考えてるんだ。紫と一緒にいるときですら」
「彼女のことも大事だけど、そのサヨコちゃんって子のこともやっぱり好きってこと?」
レモンサワーを一気に呷る。頭がくらくらした。
「俺が、サヨコのことを、好き?」
「え? そういう話じゃないの?」
「いや、だって、俺には紫がいるし。サヨコのことは、なんていうか放っておけなくて。とにかくさ、幸せになってほしいと思ってる」
金田はそっと水の入ったグラスを渡してくれる。喉を鳴らすように飲み下したけど、随分と温くなってしまっていて、頭がすっきりすることはなかった。
「ふうん。石崎が自分で幸せにしてやろうとは思わないんだ? サヨコちゃんのこと」
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