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「いや、サヨコはもうすぐ結婚するみたいだし。俺がサヨコにしてあげられることなんてないよ。それに……」 「それに?」 「サヨコはきっと、今の俺のことなんか好きにならない」  金田は枝豆を口に放り込みながら、話の続きを促した。 「俺たち、あのとき両想いだったんだ。サヨコは、あの頃の俺のことを好きだって言ってくれた。もう一度会いたいって言ってくれた。でも、大人になった今の俺は……ひどいもんだろ? 今更正体明かしたって、幻滅されて終わりだよ」 「でも、今の石崎のことも嫌ってなんかないだろ。デートに誘ってくれるくらいなら」 「それはたぶん、都合が良かっただけなんだよ」  金田はすっかり黙ってしまって、ジョッキを回すようにしてレモンサワーをかき混ぜた。氷漬けだった檸檬はとっくに溶けてしまって、半透明の液体に果肉がふわふわと浮かんでいる。店内のBGMとどこかのテーブルから漏れ出る浮かれた笑い声に耳を傾ける。この店で神妙な顔をしているのはきっと俺たちだけなんだろうな。  ごとり、とジョッキを置く音に顔を上げると、金田が渋い顔で俺を見ていた。
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