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散々遊んできたくせに馬鹿みたいな話だけど、『浮気』という言葉はなかなかダメージが大きかった。紫のことを大事にしたいという気持ちに嘘はない。このままでは、彼女をきっと傷つけてしまうだろう。
それでも、目を閉じるとあの夜のサヨコの泣き顔が思い浮かぶ。俺が煌太だと打ち明けたら、サヨコは受け入れてくれるだろうか。どちらかに決めるのは、それからでも遅くないんじゃないか?
ふっと湧きあがったその考えを振り払う。さすがにそれは、自分でも最低だとわかる。
もう、サヨコに会うのはよそう。別に、俺なんかいなくたってサヨコの人生には何も影響しない。寧ろ、俺なんかいないほうが、サヨコはきっと幸せになれる。
「こんなもの持ってるからいつまでも過去に捕らわれるんだ」
この十数年大事にしていた携帯電話を乱暴に放り投げる。嫌な音がして慌てて拾い上げると、画面にヒビが入っていた。結局、壊れても捨てられなくて、引き出しの奥にしまい込んだ。
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