93人が本棚に入れています
本棚に追加
「辞めちゃったって……いつですか?」
「先週くらいだったと思いますよ」
「そんな……遠野さんと連絡取ることってできないですか?」
「無理ですよ。あたし、遠野さんの連絡先なんて知らないですし。ま、知ってても教えないですよ。人の連絡先を勝手になんて」
連絡先は教えなくても、噂話はぺらぺらと喋っちゃうくせに。そんなことはさすがに言わないけれど。彼女がそうなら、他の人に聞いてもサヨコの情報は手に入らないだろう。それ以上サヨコのことを聞くのはやめにした。
もともとメールで済むような用件だったから、打ち合わせはすぐに終わってしまった。夏の間はまだ明るかったこの時間も、秋の入り口に立ったからか薄墨色の空に気のはやい星が瞬き始めている。
思いがけずひとりの時間ができてしまって、ふらふらと街を彷徨った。数歩進むごとに空の色が黒く煮詰まっていくみたいだ。秋なんか、嫌いだ。サヨコが消えたあの年も、秋が来るのが早かった。いつもの風景が色を失っていくたびに、夏が遠ざかっていくのを実感して落ち込んだ。サヨコにはもう二度と会えないって突きつけられるみたいだったから。
最初のコメントを投稿しよう!