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 最後にふたりで飲みに行ったときのサヨコの泣き顔を思い出して、胸が痛んだ。どうしてサヨコは俺にひと言も告げずに会社を辞めてしまったのだろう。でも、もしかしたら言おうとしていたのかもしれない。先にサヨコとの間に壁を作ったのは、間違いなく俺だ。自分の身勝手な理由で、彼女を突き放してしまったことを今更ながら後悔した。  母親のために結婚しようと決意したサヨコ。その母親の具合が悪くなったということは、容態にもよるけれど、三か月という結婚までの期限を早めていてもおかしくないのではないだろうか。あれこれ考えたところで、彼女との唯一の接点を失ってしまった俺は、それを知る術がないのだけれど。  会えないと思うと、会いたくて仕方がなくなる。もしも、またサヨコがひとりで泣いていたらと思うと、胸の奥が掴まれたみたいに痛くて苦しくなった。サヨコには婚約者がいる。だから、泣いていることはないだろう。だけど、やっぱりサヨコに泣いてほしくなんかない。  ……違う。もしもサヨコが泣いているのなら、俺がその涙を拭ってやりたい。  もっと早くにこの気持ちに気づくべきだった。サヨコが今どこにいるかわからない以上、寄り添ってやることもできないんだから。
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