10

6/10
前へ
/98ページ
次へ
「大丈夫? ご飯は食べたの?」  首を横に振る。紫は困ったな、と呟いて考え込む。 「冷凍してたご飯があるかも。それでお茶漬けくらいなら用意できるけど、食べる?」  今度は首を縦に振る。そんな俺を見て、紫は眉尻を下げて笑った。 「煌太君、どうしちゃったのかなあ? とってもかわいいけど、声が聞きたいな」 「……どうして」 「ん?」 「どうして俺なんかに優しくしてくれるの?」  ふわりと包み込まれるように抱きしめられる。好きだからに決まってるじゃない、と言った紫からは、いつもの俺の好きな香りがしなかった。肩を押し返して、距離を取る。 「紫、ごめん。俺……ずっと紫に甘えてた」 「別に、私は構わないけど。そういうところも含めて好きだから」  紫の優しさに、大切に思われることの心地よさに、溺れてしまいそうになる。だけど、俺がここに来た目的をきちんと果たさないといけない。そう思いながらも、食卓に招かれて腰を下ろしてしまう。空腹と寒さで倒れそうだったから。  促されるまま、紫が用意してくれたお茶漬けを夢中で搔き込んだ。紫は俺の向かいに座って、頬杖をついて俺の様子を見守っている。 「紫は食べてきたの?」 「うん。部長と軽くね」
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!

93人が本棚に入れています
本棚に追加