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「大丈夫? ご飯は食べたの?」
首を横に振る。紫は困ったな、と呟いて考え込む。
「冷凍してたご飯があるかも。それでお茶漬けくらいなら用意できるけど、食べる?」
今度は首を縦に振る。そんな俺を見て、紫は眉尻を下げて笑った。
「煌太君、どうしちゃったのかなあ? とってもかわいいけど、声が聞きたいな」
「……どうして」
「ん?」
「どうして俺なんかに優しくしてくれるの?」
ふわりと包み込まれるように抱きしめられる。好きだからに決まってるじゃない、と言った紫からは、いつもの俺の好きな香りがしなかった。肩を押し返して、距離を取る。
「紫、ごめん。俺……ずっと紫に甘えてた」
「別に、私は構わないけど。そういうところも含めて好きだから」
紫の優しさに、大切に思われることの心地よさに、溺れてしまいそうになる。だけど、俺がここに来た目的をきちんと果たさないといけない。そう思いながらも、食卓に招かれて腰を下ろしてしまう。空腹と寒さで倒れそうだったから。
促されるまま、紫が用意してくれたお茶漬けを夢中で搔き込んだ。紫は俺の向かいに座って、頬杖をついて俺の様子を見守っている。
「紫は食べてきたの?」
「うん。部長と軽くね」
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