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てっきり誤魔化されるかと思っていたのに、紫はあっさりと部長と一緒にいたことを白状した。やましいことなんかないということか。紫と部長がそういう仲なのであれば、身を引く形で別れを告げられると考えていた自分が、浅ましくて嫌になる。
「煌太には言ってもいいかな……私ね、ニューヨークに行こうかと思っているの」
「え? 旅行?」
「そうじゃなくてね。海外転勤の話を持ち掛けられてて」
どんな言葉を返すべきか悩んだ。紫は俺を信頼してこの話をしてくれたはずで。恋人という立場であれば、『応援している』と送り出すか、『行かないでほしい』と引きとめるかなのだろう。
「もう決まったの? いつから?」
「まだ悩んでるけどね。行くことになったら年明けから二年は向こうかな」
「紫は行きたいの?」
「行きたいと思ってる。海外で仕事するのは夢だったから。でも……」
紫は右耳に髪をかけながらそう答えた。その仕草は強がっているとき、無理しているときの癖だ。きっと紫はまだ決めかねているんだ。
「煌太のことが心配」
そう言いながら紫は俺の手をそっと握った。握り返したくなる気持ちを堪える。
「俺のことは大丈夫だよ。行きたいなら行ったほうがいい。応援するよ」
「私がいなくても大丈夫?」
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