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 俺ってそんなにひとりじゃ生きていけなそうな男なのかな。それとも、紫とそういう関係になる前のだらしない男に戻ってしまうことを心配されているのだろうか。 「大丈夫だよ。っていうか、俺のことは忘れていいから」  その言葉を受け止めて、意味を理解した紫は表情を歪ませた。湿った声で「どうして」と言う彼女につられて泣いてしまわないように、目に力を込める。 「俺、やっぱりサヨコのことが気になるんだ。紫のことも大事にしたかったけど……きっと傷つけるから。ごめん、別れよう」  紫の大きく開いた目から涙が溢れて、頬を伝っていく。傷つけるから別れよう、なんてよく言えたものだ。今、この瞬間にも間違いなく紫のことを傷つけているのに。 「あー……そっか。よかった。煌太、ちゃんと気づけたんだね」  瞳を潤ませたまま、紫は微笑んだ。責められると思っていたのに、こんなときまで優しくされて調子が狂う。いっそのこと罵倒してくれたほうがよかった。 「ごめんね、煌太。私のほうこそ、煌太の本当の気持ち、気づいていないわけじゃなかったのに、ずっと知らないフリしてた。煌太が悩んで、苦しんでるのもわかってて、それでも繋ぎとめようとしてたの」 「紫は悪くないよ。全部俺が悪い」 「……そうね。じゃあ、せめて私から終わらせたことにさせて」 「もちろん……異論はないです」
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